ワーグナーのオペラ(本人は楽劇つまり音楽劇としている)『トリスタンとイゾルデ』を観てきました。ワーグナーのオペラは長いのが多いですが、今回の作品も、第1幕85分 (休憩45分)第2幕70分(休憩45分)第3幕80分と、休憩入れて5時間25分という長丁場でした。この作品は、2010/2011年にこの劇場で、やはり現在芸術監督をも務める大野さんが指揮したものの再演です(演出:デイヴィッド・マクヴィカー、前回は東京フィルハーモニーが演奏)。
昔、初めてこの音楽(特に前奏曲)を聴いたとき(生の演奏ではなくレコードかCDかラジオだったかと思います)、理論・知識を知らない私でもものすごい襲撃を受けたことが思い出されます。なんだこれは!と。
理屈でいうと、トリスタン和声などの不協和音を音楽の中心にした、とか、無限旋律(歌い手のパートを区切らずに連続させる)、とか、解説されるのでしょうが、いやいや感性、身体に直接響いていく音楽の衝撃が斬新なのでした。
今回の舞台・作品については、登場人物は少なく、セットも整理されシンプルでありながらとても印象的でした。一方、楽団は大人数。歌い手、演奏とも質が高く、迫力がありました。オペラは、愛と死を描いたどろどろしたものが多いですが、これもそうです。しかししっかり筋を追っていくと、事はそれほど単純ではなく、それぞれの善意、思いがずれることによって悲劇となっていく悲しさがあります。人間社会はそのようなものともいえましょう。
開演までには、次々と主役の男女2人とも降板となり、チケットをかなり前に手に入れていた者としては、極めて残念だったのですが、短い間によくまとめ上げたものです。ワーグナー作品でも定評のある、海外でも大活躍の日本人メゾ・ソプラノの藤村さんは今回も安定で、筋としても全体をつなげる役目をしっかり果たして存在感がありました。
凝縮された作品、演奏のおかげや、休憩が長目に設定されていたせいからか、あまり長いとは感じませんでした。コロナ下のマスクを求められていた時でなかったことも、幸いでした。
唯一不満は、座席がB席なのに舞台が見づらい、見えないことでした。登場人物、スポットが当たる人が特に少ない作品なので、前の人の頭で見えないことが多いのは、つらいですね。チケットがますます高騰化しているのに、これでは、C席(4階など)や横の方の席などを選ぶ方がましでした。ダイジェスト映像が公開されていますので、紹介しておきます。
指揮:大野和士、演出:デイヴィッド・マクヴィカー、
美術・衣装:ロバート・ジョーンズ、照明:ポール・コンスタブル
振付:アンドリュー・ジョージ、再演演出:三浦安浩、合唱指揮:三澤洋史
舞台監督:須藤清香、合唱:新国立劇場合唱団、管弦楽:東京都交響楽団
トリスタン:ゾルターン・ニャリ、イゾルデ:リエネ・キンチャ
マルケ王:ヴィルヘルム・シュヴィングハマー、クルヴェナール:エギルス・シリンス
メロート:秋谷直之、ブランゲーネ:藤村実穂子、牧童:青地英幸
舵取り:駒田敏章、若い船乗りの声:村上公太