能を観る 「阿漕」と狂言「二九十八」

千駄ヶ谷にある国立能楽堂に行ってきました。能の鑑賞はかなり久しぶりです。確か、銀座のGINZA SIXの地下に「観世能楽堂」が渋谷から移転・オープン(2017年4月より)して、一度試しに行ってみたこと以来だったかと思います。国立能楽堂についてはもっと久々です。能はけっこうファンがいるというより、公演機会がかなり少ないため(一企画1回のみ)、なかなかチケットをとるのも大変です。ましてやコロナ下で定員制限がまだ厳しかったりしてなおさらです。今回は偶然にも機会を得られました。国立能楽堂での公演は、値段が手ごろなのがうれしいです。

国立能楽堂
国立能楽堂
国立能楽堂普及公演
国立能楽堂普及公演

今回は、「10月普及公演」です。解説が演目の前に行われ、続いて狂言が「二九十八」の1本、能が「阿漕」の1本という、全部で2時間45分くらいの内容です。席は「脇正面」(本舞台の正面側でなく、揚幕から舞台につながる通路である「橋掛り」の方に席があり、正面横から観るようになる)を選びました。座席の配置は以下の通りです。

座席表(国立能楽堂HPより)
座席表(国立能楽堂HPより)

さて、公演の内容ですが、まず研究者の横山太郎さんによるわかりやすい解説がありました。「地名の秘密、反復の罪科」というタイトルは何なのだろうと思っていましたが、謎が解けました。もともと「阿漕」って、「あこぎな奴」とか「あこぎな商売」とかで使う言葉と関係があるのだろうか、と考えていました。強欲とかあくどい、しつこいというようなイメージでしょうか。やはり、この能、関係がありました。能自体が由来というのではなく、必ずしも特定されない阿漕の浦という地名、そこから来る伝説などが絡み合い、能でもその伝えが利用されたようです。

能楽堂の舞台と見所(けんしょ)
能楽堂の舞台と見所(けんしょ)

しばし休憩後、まずは狂言和泉流です。狂言は昔の言葉といっても庶民の言葉なので、語尾は違うものの(候、とか)、現代人にも大体理解できます。「二九十八」は、妻を持てなかった男が観音様に祈ったところ、夢のお告げで出会った女のところに迎えに行き、自分の家に連れてきて婚礼の盃を交わしたもののずっと隠していた顔をみたら・・だった。ということで、逃げ出す男。世の中うまくはいきません。男の問いに対して女の答えは和歌で返されますが、その中で「宿は何軒目」という答えが「にく」、つまり18軒目ということでした。しゃれたところと笑いが軽妙で楽しい作品です。顔も驚きでした。
シテ:野村又三郎、アド:野口隆行です。

休憩後、能「阿漕」喜多流です。能は昔の言葉で演じられ難しいですが、能楽堂では席に字幕画面があり、使用すると大筋が表現されるのでわかりやすいです。月ごとの解説が出ている安価なパンフレットを買って概略をみたり、そこには詞章自体もおおよそが記載されているので、それを追いながら鑑賞することもできます。

さて筋ですが、伊勢の国の「阿漕が浦」に来て老人に出会い、この浦のいわれを聞いたところ、殺生禁断の浦で漁をした阿漕という名前の漁師がその罪でここに沈められたことが語られます。亡霊は今も苦しみあえいでいるので弔ってほしいとも言われ、さらに老人は漁を行う様を見せます。ここまでが、前場(前半のこと)。

後場(後半)はとおりかかった里人にさらなる詳細を聞き、そのとき会った老人は阿漕の霊であろうと知ります。僧が読経する中、阿漕の霊が姿を変えて現れしつこく漁をする姿を見せます。波は火となり、とった魚も姿を変え阿漕を苦しめ、とうとう助けてほしいと願ったのもままならず、また波の底へ姿を消していきます。
という、動きは一部を除いては終始静かながら、ものすごい苦しみを表現してつらい悲しい内容の能でした。ただ解説がなければそのようなことが明確にはわかりにくかったのですが、そこを踏まえて鑑賞すると奥深さを感じることができます。解説の中で、今の現実に置き換えて、ある社会的な問題を起こした人が現在も後世でも何度も、その名を代名詞としてその事象のことを言われ続けたら地獄ですよね、という例えはわかりやすいものでした。
シテは大ベテラン、役柄なのかどうなのかはわかりませんが、動きがややどうかなとも思えましたが、私は能に詳しくないのでそれはよくはわかりませんでした。

前シテ/漁翁・後シテ/阿漕の霊:塩津哲生、ワキ/旅僧:殿田謙吉、ワキツレ/従僧:則久英志、ワキツレ/従僧:野口琢弘、アイ/阿漕の浦人:奥津健太郎、です。

なお今回、使われた面(おもて)は、静嘉堂文庫所蔵のものから借りたもの(前シテの三光尉、後シテの痩男)ということで、現在静嘉堂文庫美術館での展示もあるということです。古いもののせいか味がありましたね。近くで見てみたいものです。

また、能や舞台の説明がわかりやすいWeb情報には、以下のものなどがあります。

能楽事典(能楽協会)

能舞台の説明(鉄仙会~能と狂言)

ジョージ について

旅行大好き、飲食大好き、劇場、博物館・美術館大好き、好奇心旺盛なごくふつうの会社員です。社会問題含め、いろいろ書いていこうと思います。
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