新国立劇場 新制作オペラ「カルメン」を観る

今までに観劇報告は出来ていませんでしたが、以前6月にバレエの「カルメン」を観たあとに、タイムリーなことに新国立劇場 2020/21シーズン最後の演目として7月3日(初日)に「カルメン」を観てきました。その記事です。振り返ってみますと今まで、オペラ作品の中で一番多く観たものは、おそらくこのビゼー作曲「カルメン」モーツァルト作曲「魔笛」になるかもしれません。
しかし、今回の「カルメン」はかなり異色でした。1992年のバルセロナオリンピック開会式で独特な演出(カルルス・パドリッサとの共同演出)を行ったアレックス・オリエが演出を担当し、ストーリーを現代に移し替えたような独特な作品だったからです。オリエ氏はカルメンを現代女性に設定、そしてアイディアの参考にしたのはロック歌手で華やかな成功と没落の一生を送ったエイミー・ワインハウスであると語っています。

指 揮:大野和士、演 出:アレックス・オリエ、美 術:アルフォンス・フローレス、
衣 裳:リュック・カステーイス、照 明:マルコ・フィリベック、合 唱:新国立劇場合唱団・びわ湖ホール声楽アンサンブル、児童合唱:TOKYO FM少年合唱団、管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
カルメン:ステファニー・ドゥストラック、ドン・ホセ:村上敏明(村上公太)、エスカミーリョ:アレクサンドル・ドゥハメル、ミカエラ:砂川涼子、スニガ:妻屋秀和、モラレス:吉川健一、ダンカイロ:町 英和、レメンダード:糸賀修平、フラスキータ:森谷真理、メルセデス:金子美香

コロナの下での準備は大変でした。入国後の待機機関もあり、リモートでの稽古も行ったようです。今回の歌手陣で特に注目されたのは、世界のフランスオペラに引っ張りだこのメゾ・ソプラノ歌手、カルメン役であるステファニー・ドゥストラックでした。実際期待に違わず演技・歌とも存在感が圧倒的でした。現代的なカルメンも力むことなく、こなしていました。エスカミーリョは、普通でしたね。特別な印象はありませんでした。ドン・ホセはハプニングでした。もともとコロナの影響からか、外国からのキャストが来なくなって日本人が務めたのですが、その定評ある村上敏明さんも健康上の理由により歌唱のコンディションがあがって来ないため(初日に限り)演技のみで、歌は舞台の左袖からカヴァーの村上公太さんが行うという前代未聞のものでした。開演前に大野和士監督(指揮でもある)が説明しました。カヴァーの公太さんがすべてを代わらなかったのは、演技等がまだ十分でないとの判断でしょうか? 歌はよかったです。コロナ下はいろいろあるものです。

作品の評価ですが、私にはいまいちでした。オリエ氏は舞台を現代に移し、カルメンをショー・ビジネスの中にいる歌手と設定しました。檻のようなシーン、スマホで写真を撮る人々。「カルメンは、力、喜び、勇気、反骨心、自由の象徴です」「カルメンの物語は、時代を超え、これまで200年の歴史の間に女性が勝ち取ってきた権利の象徴ともいえます」と言っています。そうなのか、との疑問もわきます。古典的な演出に慣れていることもありますが、オリエ氏の移し替えは中途半端な気もしました。この演出の奇抜さを避けようと思えば、目をつぶって鑑賞すればどうなるのか、とのことも考えました。演出は多様であってよいと思うのですが、題材を古典に求める以上、台本はある程度脚色できても、曲、歌詞からは完全に離れることはできないでしょう。例えばカルメンには、タバコ工場のシーンがありますが、これをやめたりタバコ自体を排することはできないのでしょうか? 相変わらず、自由の象徴のひとつが「タバコ」とは現代的ではないと思うのです。

などと、いろんなことを考えさせるのが、挑戦する演出のよいところなのかもしれません。今回、明日の10月18日より3か月間に限り何と、この『カルメン』が無料配信されます。皆さんも、評価はそれを鑑賞してから考えましょう。こちらです。

さらに、発展した考えをひとつ。日本ではメトロポリタンオペラ(ライブビューイング)で2011-12シーズンに登場したフィリップ・グラス作曲『サティアグラハ』のことも思い出しました。非暴力・不服従(=サティアグラハ)の実践で有名なマハトマ・ガンジーの半生に焦点をあてた作品ですが、その音楽・舞台構成がとても斬新で圧倒されました。衝撃的かつ魅力的な作品でした。そしてこのときの台本がインドの叙事詩、バカヴァッド・ギーターから引用されたというサンスクリッド語によるもので、歌手は現実の舞台とは直結しないその言語と歌詞で歌い物語を語っていくのです。このような分離はとても創造的でした。

最後に、新国立劇場の値段の高騰(特にオペラ)について。もう少しどうにかならないものでしょうか? 新制作とはいえ、いまやこの値段構成です。若い世代向けの手頃な拡充も望まれますね。

新国立劇場オペラ「カルメン」のチケット代金

ジョージ について

旅行大好き、飲食大好き、劇場、博物館・美術館大好き、好奇心旺盛なごくふつうの会社員です。社会問題含め、いろいろ書いていこうと思います。
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