アウガルテンの食器デザイナーを探る

このところ縁あって、「よみうりカルチャー恵比寿」で行われている『美術様式と食器デザイン』講座に途中の回から参加しています。講師は、西洋磁器史等の研究で精力的に活動されている加納亜美子さんです。サイトは、こちら
私は素人ですが、食器や美術等にも関心があるので、タイムリーな機会と思いました。特に8月期のテーマは「アール・ヌーヴォーとアール・デコ」で一番興味深いものでした。講座では、先生が持参してくれる書籍資料や実物(食器等)を見たり触ったりできるのも楽しみのひとつなのですが、とても開放的な雰囲気なので、私も了解を得てテーマに関するものを今回2つ持ち込んでみました。2つともオーストリア・アウガルテンの食器(19cmほどのプレート)です。

アール・ヌーヴォーとアール・デコのデザイン食器群
アール・ヌーヴォー(左側)とアール・デコ(右側)のデザイン食器群

1枚は、有名なウィーン分離派の建築家・デザイナーであるヨーゼフ・ホフマン(1870-1956年)のデザインによるもので、「デコ・ヴィエナ」Deco Vienneです。金のスズランの花と黒いシンプルな模様のバランスが絶妙ですね。 もう1枚は、「ジュネス」Jeunesseといいます。明るい色合い、花など植物を表している有機的なデザイン素材ながら、線や模様が機械的模式的な感じもします。全体として、カラフルで動きのある陽気で楽しい感じですね。受講生の方からは、(ジョアン・)ミロなどにも似てはいないか、との感想もありました。プレートの縁の囲みの色はこの黄色以外に赤と緑のタイプもあるようです。

さて、こちらはどのような人がデザインしたものなのでしょう? これは、私にとっては何年も前からの埋もれていた懸案事項のひとつなのでした。今回、先生に質問するとともに、自分も久しぶりに深く検索を繰り返し、図書館にも足を運んで、ようやくいくつかの資料を見つけることができました。あまり日本では資料がないようなので、ここで現時点でわかったことや関連資料を整理しておきたいと思います。

この食器との出会いですが、東京では2016年10月から2017年1月にかけて、国立西洋美術館での企画展として、私も好きな「(ルーカス・)クラーナハ展」が開催されました。そのときにTBSテレビが「サワコのひとり旅 in ウィーン ~ 巨匠クラーナハが愛した芸術の街へ 」でウィーン特集みたいな番組を制作したのですが、そこでウィーン美術史美術館などの紹介とともにアウガルテンでの食器絵付け紹介などをしていて、そこに一瞬だけ映ったジュネスの食器群、それに魅せられたのです。後日、たまに出入りしていた「ル・ノーブル銀座店」から注文が出来ることを知り、ある程度の期間を待って手に入れた1枚がこれなのでした。当時は、「ル・ノーブル」での紹介情報くらいしか知りませんでした。

そして、今回わかったことを簡単にまとめますと、ル・ノーブルでは「アールヌーボー芸術家、フランツ・フォン・デュロー」などと書かれていましたが、日本では過去には「フランツ・フォン・チューロウ(1883-1963年、ウィーン)」と紹介されていたこと。日本語、英語の百科事典や芸術系の事典などではとりあげられていないようですが、ドイツ語系の百科事典では簡単に紹介されていました(Franz von Zülow)。日本には、東京では1997年に安田火災東郷青児美術館(当時の名称)で開かれた「ウィーン世紀末展 レオポルドコレクション」で彼の作品が1点だけ出品されていて(水車小屋の堀;インク、水彩、吹き付け作品 p.64)、図録で作家紹介がされています。それによると、「1908年にオーストリア芸術家協会(ウィーン分離派)に参加。(中略)1925年、パリの国際美術工芸展で金メダルを受賞。(中略)作風は、ユーゲントシュティールの装飾性に民芸の趣が加味されたもの」(一部分のみ引用、p.159)としています。また、より詳しいことが下記の複数のサイトに記載されています。アウガルテンの食器では、このようなメルヘンチックなものが過去にあったようです。等々・・・。資料をまとめておきます。

資料・ネット情報紹介

・「サワコのひとり旅 in ウィーン ~ 巨匠クラーナハが愛した芸術の街へ 」
https://www.tbs.co.jp/program/vienna2016.htm

・ル・ノーブルのオンラインサイト(食器の紹介がある)
https://www.le-noble.com/d/s/product_info/015452440001/

・アウガルテン2014年カタログ(ジュネスが掲載されている)
https://bzl.ru/sites/default/files/augarten-min.pdf

・千足伸行監修『ウィーン世紀末展 レオポルドコレクション』読売新聞社 1997年

・ブロックハウス百科事典30巻 Brockhaus Enzyklopädie in 30 Bänden

・「デザイン・イズ・ファイン」のサイト(チューロウの食器デザイン紹介がある)https://www.design-is-fine.org/post/120163201339/franz-von-zulow-design-drawings-for-a-te

・「スミソニアンデザインミュージアム:クーパー・ヒューイットのコレクション」のサイト(チューロウの詳しい紹介がある)
https://collection.cooperhewitt.org/objects/18728689/

ということで、自分の関心の1点に話は集中しましたが、この講座ではお勉強的に言いますと、私なりの関心にひきつけて学べたさらなることは以下の通りです。
・アール・ヌーヴォーとアール・デコの大きなデザイン傾向と、時代が理解できた。
・この時代でのアウガルテンの位置づけ(アール・ヌーヴォーの時代は閉鎖していたことなど)が理解できた。
・ロイヤルウースターのカップの蝶のハンドルの精密さ・貴重さを知ることができた。
・オールドノリタケの、ラスター彩の美しさを発見できた。

興味深い話には、心が動き、頭が働きます。さらに触発された好奇心で、自分なりにいろいろ探究していきたいものです。

注意・警告
今回、アウガルテンのジュネスなどを広く深く検索した際に、販売の偽サイトみたいなものに複数出会いました。明らかに他のサイトからの写真情報の転載と、かなり格安での値引きの値段。気をつけましょう

ジョージ について

旅行大好き、飲食大好き、劇場、博物館・美術館大好き、好奇心旺盛なごくふつうの会社員です。社会問題含め、いろいろ書いていこうと思います。
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