新国立劇場でも2024/2025シーズンが始まりました。そこで新制作のオペラ ベッリー二(1801-1835年)の『夢遊病の女』を10月に観てきました。
ベッリー二と聞くと、ベルカント・オペラ(美しい歌)。『ノルマ』や『清教徒』などがよく知られていて、その中でも『清教徒』の狂乱の場などは、特にドニゼッティの『ランメルモールのルチア』とともに歌手にとって難しい曲ゆえに優れた才能を披露するものともなっています。
さて、初めて観る(聴く)『夢遊病の女』はどのような作品、そして歌手の表現はいかなるものだったのでしょうか。
スイスのある村での出来事。結婚を前にした若い男女の間で、単純ながら事件が起こります。舞台は、全2幕それぞれに暗転のような2場があり、美しく印象的なものでした。全体として、さすがベルカントといわれるように、きれいな旋律が多い音楽、また合唱の素晴らしさがありました。特に覚えてしまうという曲は正直ありませんでしたが。
夢遊病という設定が意外ですが、この時代、都会ではこの「新しい病気」が話題になっていたらしいです。精神分析の前の時代のことです。
また筋は単純ですが、いろいろ演出が考えられる中、アミーナの心の状態をダンサーが踊り・動きで表現していくというところは秀逸でした。
今回、アミーナの役柄の歌手は、7月に芸術上の理由(役に声が合わなくなってきた)で降板となったのですが、しかし幸運。30歳前にして今注目のイタリア若手ソプラノのクラウディア・ムスキオさんが登場となったからです。彼女は名門歌劇場に次々と登場し、現在はシュトゥットガルト州立劇場の専属歌手。7月にはそのシュトゥットガルトで、このアミーナ役のロールデビューを飾り、大成功を収めていたということで、ベストな出演となりました。期待を持つ中、繊細にして優しくかつしっかりした歌声、華麗でチャーミングな姿と相まって大満足でした。舞台のクライマックスでは、屋根の高いところでの歌唱・演技は観る側からすると少しハラハラさせましたが。他の歌手も粒ぞろいで大満足!
指 揮:マウリツィオ・ベニーニ 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱:新国立劇場合唱団
演 出:バルバラ・リュック 美 術:クリストフ・ヘッツァー
衣 裳:クララ・ペルッフォ 照 明:ウルス・シェーネバウム
振 付:イラッツェ・アンサ、イガール・バコヴィッチ
演出補:アンナ・ポンセ 舞台監督:髙橋尚史
スペイン・イタリアとの共同制作:テアトロ・レアル、リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場
【キャスト】
ロドルフォ伯爵:妻屋秀和 テレーザ:谷口睦美
アミーナ:クラウディア・ムスキオ エルヴィーノ:アントニーノ・シラグーザ
リーザ:伊藤 晴 アレッシオ:近藤 圭 公証人:渡辺正親
ダンサー:安藤菜々華、伊藤舞、辻しえる、冨岡瑞希、矢野友実、池上たっくん、市場俊生、髙橋滋生、遠井公輝、渡部義紀
助演(従者):松田祐司